トイレで流されたティッシュペーパーが、排水管を無事に通り抜けたとしても、その旅は終わりではありません。むしろ、そこからが新たな問題の始まりです。家庭のトイレで詰まりを起こさなかったからといって安心するのは早計です。その一枚のティッシュは、私たちの目に見えない巨大な社会インフラ、つまり下水道システム全体に深刻な負荷をかけ続けているのです。 家庭から流された排水は、長い下水管を通り、やがて地域の下水処理場へとたどり着きます。ここで、水に溶けるように作られたトイレットペーパーは、沈殿槽で適切に処理され、微生物によって分解されていきます。しかし、水に溶けないティッシュペーパーは、そうはいきません。 水中で形を保ったままのティッシュは、下水処理の最初の関門であるスクリーン(巨大な網)に大量に引っかかります。さらに、それをすり抜けたものも、水を循環させるポンプの羽根に絡みつき、機械の故障を引き起こす大きな原因となります。これらの除去や修理には、多大な人手と時間、そして税金から賄われるコストがかかっています。つまり、私たちが何気なく流した一枚のティッシュの後始末のために、見えない場所で誰かが働き、社会全体がその費用を負担しているのです。 この問題は、自分の家のトイレが詰まるか詰まらないかという個人的なレベルの話ではありません。社会全体のインフラを健全に維持し、無駄な税金を使わせないための、私たち一人ひとりのモラルが問われています。トイレの横に小さなゴミ箱を置き、ティッシュはそこへ捨てる。その小さな行動は、自宅のトイレを守るだけでなく、私たちが暮らす社会全体の環境とインフラを守るための、重要で責任ある一歩なのです。